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ノブ・ハヤシ、大谷貴子/白血病患者支援
「ママになる喜びを患者に」#12

元K-1ファイターで現役格闘家のノブ・ハヤシ(42)。かつて闘病のベッドから「日本にも骨髄バンクを」と叫び、実現への原動力となった大谷貴子(59)=全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問。「どりサポ」でもおなじみの両者はともに骨髄移植で白血病を克服し、今はそれぞれの道で白血病患者を助けている。互いに尊敬しあう間柄だが、違いもある。ノブはわが子を抱く幸せを知り、大谷は知らない――。そんな2人が今度は同じ舞台に立ち、若い女性患者の妊娠支援に向かう決心をした。

(全16回連載)

「私も試したい」

治療による不妊に直面した女性の白血病患者にとって、桑山正成が編み出したガラス化保存法による卵子(未受精卵)の採取と長期保存は大きな光明だった。医療界も容認し、卵子保存を手掛けるクリニックも増えた。

だからと言って、患者の誰もがすぐに飛びつけるものでもなかった。

演壇に立つ大谷貴子さん
演壇に立つ大谷貴子さん

残された課題は費用だった。卵子保存は保険適用外、つまり全額自費なのだ。全国骨髄バンク推進連絡協議会の試算では、現在、20代前半の女性患者が未受精卵を採取し、10年間保存するとなると、費用はざっと100万円。ほかに体外受精の費用などが加わる。

それに当初は東京の一部のクリニックでのみ実施可能だったので、遠い患者は通院のための交通費やホテル滞在費などもかかった。病気の治療費や薬代を払っている身としては重い負担だった。

大谷貴子は桑山と出会った2001年以降、患者の会などいろいろな場で「卵子保存という方法がある」と伝えた。当然、患者から「私も試したい」と望む声が出た。

イベントも大事な啓発の場だ。
イベントも大事な啓発の場だ。

「良かったらうちに」

東京から遠くに住む患者に、大谷は「良かったら私の家に泊まりながら通院してみては。埼玉の加須だからクリニックへはちょっと時間がかかるし、そう広くもないけど。遠慮しないでいいから」と持ち掛けた。もちろん患者の出費軽減のため。「患者の救済に人生を捧げる」と誓った大谷らしい献身だった。

ただ、実際に患者を自宅に泊めてみると、想像以上に大変だった。当然気も使うし、三度の食事に洗濯、クリニックに行く日は最寄りの駅までの送迎のほか、電車の乗り換えに不安があれば家の車に乗せ、自分のハンドルでクリニックの間を往復した。

若者との対を大切にする。
若者との対を大切にする。

「もうやめなさい」

自分は自分で年300回の講演活動。大谷本人や家族に疲労がたまらないわけがなかった。

大谷の記憶では2007年のある日の晩、泊めた患者が突然、「おなかが痛い」と異変を訴えた。動転した大谷は救急車を呼ぶのも忘れ、自分の車に乗せて都内の知り合いのクリニックへと走った。

経営するスーパーの前で夫の関口隆さんと。「ボランティアに身を投じていられるのも夫や家族の理解と協力のおかげ」と感謝する(埼玉県加須市で)
経営するスーパーの前で夫の関口隆さんと。「ボランティアに身を投じていられるのも夫や家族の理解と協力のおかげ」と感謝する(埼玉県加須市で)

幸い事なきを得たが、北折健次郎に話すと「そういうことはもう絶対やめなさい。事故を起こしたらどうするのですか。取り返しがつかないのですよ」と、かつてないほどきつく叱られ、患者の自宅受け入れを一切やめた。

「こればっかりはどこをどう突いても打つ手はないか」。ため息が出た。ところが4年後、大谷が助けた女性白血病患者が、今度は逆に大谷に救いの手を差し伸べてくるのである。

敬称略

(全16回連載)

#13に続く

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