元K-1ファイターで現役格闘家のノブ・ハヤシ(42)。かつて闘病のベッドから「日本にも骨髄バンクを」と叫び、実現への原動力となった大谷貴子(59)=全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問。「どりサポ」でもおなじみの両者はともに骨髄移植で白血病を克服し、今はそれぞれの道で白血病患者を助けている。互いに尊敬しあう間柄だが、違いもある。ノブはわが子を抱く幸せを知り、大谷は知らない――。そんな2人が今度は同じ舞台に立ち、若い女性患者の妊娠支援に向かう決心をした。
(全16回連載)
目次
「若者に広める方法」
「白血病患者の不妊という社会課題を世の人に知ってもらい、こうのとりマリーン基金の充実と助成拡大を図りたい。コロナ禍で献血とドナー登録が不調だということも伝えたい。白血病に関心のある人はとっくに承知の話だけど、今まで関心のなかった層、とりわけ、なかなか振り向いてくれなった若者に広めたい。そのために何か斬新なアイディア、方法はないかしら」
思案する大谷貴子に、格闘家ノブ・ハヤシが投げた「僕にできることなら何でもします」のひと言は大きかった。大谷は「ノブさんが私に協力してくれるなんて。とても心強い。実はやりたいことがあるの」と、率直に自分の望みを打ち明けた。
ノブは「分かりました。やります。僕も娘ができて、人の親になった喜びを手にしました。すべての患者にも知ってもらいたいです」と真剣に語った。また大谷を感激させた。
問題は新たな手法だった。

「自分らしい社会貢献」
実は二人の志を具体的な形にすべく、ある提案をした人物がいた。この「どりサポWebメディア」を世に出した山下敦(57)だった。
山下は高校野球の名門、東海大相模高校でエースを務めた元球児。大学を卒業し、社会に出た後も公私ともにアスリートたちとの交流を深めた。
その一つに、プロ野球の内海哲也投手(巨人→西武)が2009年のオフシーズンから始めた「内海哲也ランドセル基金」がある。シーズン合計の投球回(かつては三振)と同じ数のランドセルを自費で各地の児童養護施設に贈る社会貢献活動。母子家庭出身の内海に「自分らしい社会貢献をしたい」と打ち明けられた山下の発案で、事務局も買って出た。

どの年のオフも内海は必ず施設に足を運んでは子どもたちに直接ランドセルを手渡し、キャッチボールに興じた。もちろん、親元から離れて暮らす子どもたちに元気を与えようという狙いだった。
「アスリートの発信力」
ところがある年、内海は「本当は私こそ子どもたちから元気をもらっているんだ」と気づき、目に焼き付いた子どもたちの笑顔をマウンドへの励みにした。施設訪問が楽しみになった。内海に感化された後輩選手たちもいつしか同行するようになった。
山下は内海が野球とランドセル寄贈、両方のモチベーションを上げる様子を目の当たりにした。そして、「厳しい勝負の世界に身を置くアスリートだって社会貢献に前向きな気持ちを秘めているし、返ってくる感謝がパフォーマンスをアップさせる。彼らの発信力で同志も集まり、ファンも注目すれば社会貢献の輪はもっと広げられる」と確信した。
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「新しいクラファンで」
山下は「どりサポWebメディア」の取材を通じて大谷とノブ知り合った。山下は二人に力説した。「患者のために人生を捧げるお二人に感銘しました。私がアスリートを主役にした、今までにないスタイルのクラウドファンディングを作ります。ノブさんたちアスリートの発信力で、寄付を集めるだけでなく、献血やドナー登録減少といった社会課題の存在も伝えたいと思います。日本の寄付文化に新風を起こせるかもしれません。私にはすべてが人生初の挑戦ですが、ぜひ一緒にやらせてください」
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白血病患者救済のために様々な壁を体当たりで突破してきた大谷は「患者のために前例のないことに挑戦するわけですね。面白いじゃないですか。やりましょう」と決心し、「ノブさんはどう思う?」と尋ねた。ノブもさっそく「僕も頑張ります。格闘家仲間にも応援を依頼してみます」と約束した。3人のチームの発足だった。
9月27日サービス開始
伝え聞いたノブの旧友、ルーラー山口もさっそく「SNS発信など、私にできることは何でもします」と協力を約束した。現役時代に自ら骨髄バンクにドナー登録し、今も寄付を続けるなど元メジャーリーガーの上原浩治、女子ラクロス界を長年牽引し、社会貢献活動に積極姿勢を見せる山田幸代からもエールの動画が届いた。そのほか、格闘界からの続々メッセージが寄せられた。
彼らアスリートの力でどこまで共感を広げられるか。舞台となる「どりサポ」のサービス開始が9月27日に迫った。
敬称略
(全16回連載)
〈終わり〉
取材協力:
株式会社リプロライフ
全国骨髄バンク推進連絡協議会
ドージョーチャクリキ日本