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ノブ・ハヤシ、大谷貴子/白血病患者支援
「ママになる喜びを患者に」#6

元K-1ファイターで現役格闘家のノブ・ハヤシ(42)。かつて闘病のベッドから「日本にも骨髄バンクを」と叫び、実現への原動力となった大谷貴子(59)=全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問。「どりサポ」でもおなじみの両者はともに骨髄移植で白血病を克服し、今はそれぞれの道で白血病患者を助けている。互いに尊敬しあう間柄だが、違いもある。ノブはわが子を抱く幸せを知り、大谷は知らない――。そんな2人が今度は同じ舞台に立ち、若い女性患者の妊娠支援に向かう決心をした。

(全16回連載)

俺がこの人たちを

いったんストーリーを離れ、世界に先駆けてガラス化法によるヒトの未受精卵子の冷凍保存実用化に成功した桑山正成(58)について改めて紹介しておこう。

出身は大阪府堺市。子どものころから動物や生き物が好きで、北海道大学獣医学部に進み、発生学を学んだ。在学中に肉牛を育てる畜産農家の現実を知り、人生の方向が決まった。

「農家を救いたくて、生殖医療の道に」と語る桑山正成さん
「農家を救いたくて、生殖医療の道に」と語る桑山正成さん

桑山が訪問した農家はどこも一家総出で、毎朝、日が昇らないうちから遅くまで牛の世話に追われていた。生きもの相手だから休みの日はない。牛肉輸入自由化も迫っていた。

「それなのに経営も家計も苦しくなるばかり。俺がこの人たちを救わなきゃ」。青年研究者の使命感に火が付いた。

「道が開ける」

1985年12月、「ウシの体外受精に成功」というニュースに目が釘付けになった。桑山は「これだ。この技術があれば高品質の肉牛の大量生産へと道が開け、小規模農家も苦境から脱せられる」と可能性を見出したのだ。

以降、ウシの受精卵の研究に没入する。開発されたばかりの「ガラス化法」を用いたウシの卵子の凍結保存に世界で初めて成功するなど、動物を対象にした生殖工学分野で金字塔を打ち立てるまでになる。

顕微鏡をのぞく桑山さん
顕微鏡をのぞく桑山さん

もう無理ですか

1999年春、さらに大きな人生の転機がやってきた。体外受精を手掛ける都内の産婦人科医院を訪れたときのこと。ぶらぶらと院内を見物している最中にあるシーンに出くわした。

不妊治療で通院していた40代後半の女性患者がはばかることなく涙にむせぶ姿だった。「どんなに頑張っても、もう私に赤ちゃんは無理なのでしょうか。諦めなきゃいけないのでしょうか」と悲嘆にくれていた。

体外受精は病院が確かな技術を持ち、経験豊富だとしても必ず成功するわけではない。いろいろな理由で卵子が採取できなかったり、採取して受精しても生育しなかったり。桑山が見たのも、久しぶりに自分の卵子を採取できたが、受精後、細胞が壊れたことを知らされた患者だった。

年齢から考えて、この先、妊娠する可能性は低かった。分厚いカルテの束が「どうしても子どもが欲しい」という尽きない願いと回数を忘れるほどの挫折を物語っていた。医院のスタッフも「お役に立てなくて本当にすみません」と、こちらも泣きながら謝っていた。

技術を正解に広めるため、海外出張にも忙しい桑山さん
技術を正解に広めるため、海外出張にも忙しい桑山さん

技術をつくってみせる

桑山は「若いうちに卵子を採取し、長期保存する技術がないがゆえの悲劇だ。不妊治療の費用だって安くはない。同じ苦しみを味わっている人は世の中に大勢いるだろうな」と考え、その場で決心した。

海外の後進たちに囲まれる桑山さん
海外の後進たちに囲まれる桑山さん

「俺はずっと『人間の卵子は神の領域。人が触ってはいけない領域』と思っていたが、違った。もう牛などに関わっている場合ではない。俺が救うべきはこの人たちだ。そのための技術がないなら俺がつくってみせる」

翌日には勤め先に辞表を提出。研究の末に成し遂げたのが、ガラス化法によるヒト卵子の凍結保存の実用化だった。

敬称略

(全16回連載)

#7に続く

最初から読む(#1)

取材協力:

写真提供 株式会社リプロライフ https://reprolife.jp/