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ノブ・ハヤシ、大谷貴子/白血病患者支援
「ママになる喜びを患者に」#8

元K-1ファイターで現役格闘家のノブ・ハヤシ(42)。かつて闘病のベッドから「日本にも骨髄バンクを」と叫び、実現への原動力となった大谷貴子(59)=全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問。「どりサポ」でもおなじみの両者はともに骨髄移植で白血病を克服し、今はそれぞれの道で白血病患者を助けている。互いに尊敬しあう間柄だが、違いもある。ノブはわが子を抱く幸せを知り、大谷は知らない――。そんな2人が今度は同じ舞台に立ち、若い女性患者の妊娠支援に向かう決心をした。

(全16回連載)

夫がいる女性のみ

女性白血病患者が放射線治療や抗がん剤治療を受ける前に未受精卵を採取・保存しておき、骨髄移植で健康回復後、体外受精でわが子を抱く――。

白血病患者の救済に人生を捧げる元患者の大谷貴子や医師の北折健次郎が、卵子保存研究の第一人者桑山正成との出会いを機に進めようとしたプロジェクト。真っ先に直面した課題が2000年代初頭当時の医学界の倫理規定だった。

このころの不妊治療関連の医療技術は受精卵の保存だけだったので、たとえば産科系学会の倫理規定も「配偶者(夫)がいる女性の受精卵の保存のみ認める」とされていた。未受精卵の保存は規定作成後に開発された技術で、規定に盛り込むどころか、まだ議論の対象にもなっていなかった。

全国骨髄バンク推進連絡協議会理事会での北折健次郎さん(今年3月)
全国骨髄バンク推進連絡協議会理事会での北折健次郎さん(今年3月)

手順を踏む

とはいえ、何かのきっかけで、北折らのプロジェクトが医療界や世論から「規定違反行為だ」との批判を巻き起こす恐れはあった。その場合、北折が畑違いの血液内科医であっても、最悪、医師免許はく奪という事態も想定できた。

北折も規定違反についてはじゅうぶん認識していた。そこで、自分の身分どうこうではなく、プロジェクトが頓挫しないよう「臨床研究」と位置づけ、患者本人の意思や体調の確認など、「慎重かつ必要十分な手順を踏む」ことを心掛けた。桑山も北折の意図に理解を示した。

凍結した卵子を加温溶液の中に入れる。桑山さんが開発した凍結卵子の融解用キットでの作業の一つ。
凍結した卵子を加温溶液の中に入れる。桑山さんが開発した凍結卵子の融解用キットでの作業の一つ。

死の危険だけは

患者の体調にかかるリスクも大きかった。採卵は患者の排卵時期を睨んで実施していたが、健全な卵を採るため、直前でいったん抗がん剤治療を中止しなければならなかった。

中止する日数は人によっては2~3週間に及んだ。その間の患者の病気再発や病状悪化、つまり死の危険にさらすことだけは絶対避けなければならなかった。

そこで北折は、いくら患者が採卵を望んでも状態に不安があった時は抗がん剤治療を優先させた。骨髄の状態を調べるため、腰に太い注射針を刺すマルク(骨髄穿刺)も通常よりだいぶ増やした。マルクは激痛を伴うが、我慢してもらった。

出血も大きなリスクだった。白血病患者は血小板が大きく減少する場合があり、卵子採取のため膣の中から卵巣めがけて長い針を刺した時に出血すると一大事だった。そこで北折は、採取する患者にその朝一番で血小板の輸血を施したりもした。

「すっぱりやめる」

もっとも、慎重に慎重を期したとしても必ず採卵できるわけでもないし、採卵できても妊娠に至らないケースもある。それどころか再発で患者が亡くなる恐れもはらんでいた。「患者を死なせたときはすっぱり病院をやめ、医師免許を返上する」と北折は自分に命じていた。

だが、実はこうした困難より北折を追い詰めた苦しみは他にあった。

敬称略

(全16回連載)

#9に続く

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